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仕様書・API不要。Claude Desktopで国土交通省のオープンデータを自在に操る方法

2025.12.10

「国土交通省が、膨大なデータを公開している」そう言われても、ピンとくる人は少ないかもしれません。あるいは「知っているけど、複雑すぎて手が出せない」と諦めていたエンジニアがほとんどではないでしょうか。

これまでは、宝の山もただの「難解な仕様書の束」でした。しかし、その常識が覆ろうとしています。面倒なドキュメント解読も、エンドポイント探しも不要。

「AIにチャットでお願いする」ことだけ。今回は、話題の「MCP」に対応した国土交通省のサーバーを使い、Claude Desktop で日本のインフラデータと対話してみたいと思います。

MLIT DATA PLATFORM MCP Server とは?

MLIT DATA PLATFORM MCP Server は、2025年11月4日に公開した国土交通省(MLIT)が提供するデータ基盤である MLIT DATA PLATFORM のAPIを「MCP(Model Context Protocol)」 経由で扱えるようにしたサーバーです。

これにより、従来のGUI操作やAPI利用に加えて、AIと自然言語で対話するだけで、MLIT DATA PLATFORM に登録された行政・公共/インフラデータにアクセスできるようになりました。

ユーザー(あなた)は直接国土交通省のサーバーと話すのではなく、ご自身のPC上のAIクライアント(Claude Desktopなど)を介して、間接的にデータを引き出します。

これまでは、APIの仕様書を読み解く必要があった複雑な検索が、以下のように自然言語で実行可能です。

  • 「〇〇県の都市計画道路のデータを検索して」
  • 「△△市の防災関連施設の一覧を教えて」
  • 「□□ダムの最新の水位情報を取得して」
鹿児島駅前で避難場所を尋ねる男の子と、MCPサーバー経由で国土交通省のデータを参照しようとするAIロボットのイラスト
活用事例:現在地周辺の避難場所検索における、AIとオープンデータの連携(Nano Banana Pro 出力)

MCP とは?

MCP(Model Context Protocol)は、AIモデルと外部データソースとの間で情報をやり取りするためのプロトコルです。MCPを利用することで、AIモデルは外部データにアクセスし、より豊富な情報を基に応答を生成できます。

AIモデルとは?

AIモデルは、自然言語処理や画像認識などのタスクを実行するために訓練された機械学習モデルです。これらのモデルは、大量のデータを学習し、人間のように情報を理解し、生成する能力を持っています。

Claude Desktop とは?

Claude Desktop は、Anthropic 社が提供する macOS / Windows 向けのデスクトップアプリケーションです。

Webブラウザ版(claude.ai)と同様にAIとチャットができますが、最大の違いは「MCPクライアント」としての機能を標準搭載している点です。

通常、Webブラウザ上のAIはセキュリティの壁があり、ユーザーのPC内で動いているプログラムやローカル環境へのアクセスはできません。しかし、Claude Desktop アプリを使用することで、ローカルで起動した MCPサーバー(今回で言えばMLITのサーバー)と安全に接続することが可能になります。

今回の構成における役割分担は以下のようになります。

  • MLIT MCP Server(サーバー):国土交通省のデータを検索・取得するための「機能」を提供する。
  • Claude Desktop(クライアント):ユーザーの指示を受け取り、サーバーの機能を呼び出して結果を表示する「インターフェイス」。
Claude DesktopがローカルのMCPサーバー(MLITデータ連携用)に接続する仕組みのイラスト。Claude Desktopを「司令塔」、MCPサーバーを「専門家」と位置づけ、アプリからローカルサーバーへ指示を出す構成を説明している。
Claude Desktopの特徴:Webブラウザ版と異なり、ローカル環境のMCPサーバーと直接接続が可能(Nano Banana Pro 出力)

つまり、Claude Desktop という 「司令塔」 を通して、MLIT MCP Server という 「専門家」 に指示を出すイメージです。

事前準備

Claude Desktop から MLIT DATA PLATFORM MCP Server を利用するためには、以下の準備が必要です。

Claude Desktop アプリ
Claude Desktop(最新バージョン)をインストールしておいてください。
MCP サーバー連携は Claude Desktop のみ対応 です。

Python(3.10 以上)
MLIT MCP Server は Python 製のため、ローカル環境に Python 3.10 以上 が必要です。
また、後のセットアップで python3 -m venv .venv により仮想環境を作成します。

MLIT DATA PLATFORM のアカウント&APIキー
MLIT のデータ API にアクセスするための APIキー が必要です。

  1. 国土交通データプラットフォーム にアクセス
  2. 画面左下のユーザーメニューから「ログイン」→「アカウントを作成する」でユーザー登録
  3. APIキーの取得

    • ログイン後、左下ユーザーメニュー →「アカウントの管理」
    • 「アプリケーションの新規登録」を作成
    • 作成したアプリケーションを開くと APIキー が発行されます

Claude Desktop と接続する

Claude Desktop が MLIT MCP Server を利用できるようにするために、設定ファイル(claude_desktop_config.json)へ接続情報を登録します。

この設定を追加すると、Claude のツール一覧に MLIT MCP Server が表示され、対話中にデータ取得ができるようになります。

{
    "mcpServers": {
        "mlit-dpf-mcp": {
            "command": "**** ここには正確なパスを挿入 ****/mlit-dpf-mcp/.venv/bin/python",
            "args": [
                "-m",
                "src.server"
            ],
            "env": {
                "MLIT_API_KEY": "**** ここには「事前準備」で取得したAPIキーを挿入 ****",
                "MLIT_BASE_URL": "https://www.mlit-data.jp/api/v1/",
                "PYTHONUNBUFFERED": "1",
                "LOG_LEVEL": "WARNING",
                "PYTHONPATH": "**** ここには正確なパスを挿入 ****/mlit-dpf-mcp"
            }
        }
    }
}

※私の環境は、MacBook Air M1チップ搭載モデルで、Python仮想環境を使用しています。OSや環境によってパスの指定方法が異なる場合がありますので、ご注意ください。

【実践】株式会社アドダス前(市電通り)の交通量を調べてみた

準備が整ったので、実際に自社前の「市電が走る主要道路」の交通量を調べてみましょう。

Claude Desktop に以下のプロンプトを入力しました。

鹿児島市 山下町電停付近(株式会社アドダス前)の市電通りについて、
MLIT DATA PLATFORM の道路交通量データを取得してください。

検索条件:
- 住所:鹿児島県鹿児島市山下町16-17
- 座標:31.598518748992422, 130.558930988175
- 市電通り(市道山下町線)付近の自動車交通量・歩行者交通量を検索

手順:
1. 上記座標周辺で利用可能な道路交通量データセットを検索
2. 最も近い道路区間を抽出
3. 利用可能な交通量データ(平日 / 休日 / 時間帯など)を取得して整理
4. データが存在しない場合は、代替可能な最寄り区間のデータを提示

ツール:mlit-dpf-mcp を使用してください。

すると、わずか数秒で次々とデータが返ってきました。以下にその一部を紹介します。

山下町電停付近の道路交通量データ
※ Claude Desktop が MLIT MCP Server を通じて取得したデータの一例

すべて掲載するとかなり長くなるので省略しますが、結果はなかなか衝撃的でした。

「市電が走るエリアは歩行者・車両ともに想像以上にボリュームがある」ことが分かり、周辺の人流を把握する上で非常に参考になる情報でした。

さらに、このデータ活用は “交通量を知るだけ” に留まりません。例えば次のような応用が可能です。

  • デジタルサイネージ広告の視認効果の推定
  • 店舗出店の適地判断(人流・車流データの比較)
  • 時間帯別・曜日別の集客戦略立案
  • イベント開催時の交通混雑の予測
  • 避難経路や災害時の歩行者流動の分析
  • 不動産価値(商業ポテンシャル)の評価指標として利用
  • 自治体との協働施策やまちづくりプランへの活用
  • SNS広告のターゲティング範囲の最適化
  • 通勤ルート可視化による企業立地検討
  • 防犯カメラ設置場所の最適化

つまり、あなたのアイデア次第で、交通量データはビジネスにも地域づくりにも応用可能な “強力な資源” になります。

まとめ

これまでは専門的な API の知識がないと扱えなかった国土交通データが、Claude Desktop と MCP Server の組み合わせによって、誰でも自然言語で簡単に引き出せるようになりました。

都市計画、まちづくり、防災、ビジネス分析、出店判断など、活用できる場面は無限大です。

「知りたいデータを、知りたいときに、自然言語で取得する」——そんな未来がすでに始まっています。ぜひあなた自身のケースでも試してみてください。